「現場の皆さんが“神”なんですよ。感謝しかないです」
西川絢子の仕事は、千船病院の全292床のベッドをコントロールする「病床管理」である。外来、救急患者、近隣病院からの紹介患者の入院依頼状況を把握し、看護師や医師、地域医療の窓口などと連携をとり、ベッドを効率よく稼働させる。ベッドの稼働率が低すぎれば、病院経営に響く。しかし、100パーセント埋めればいいというものではない。「9割をキープすることが目標。1割の空きベッドがなければ緊急性の高い患者さんを受け入れられなくなる。患者さんの状態によってはやむなく受け入れをお断りすることも重要な仕事なんです」
千船病院は、急性期医療を担う地域医療支援病院、救急指定病院でもある。急性期にある緊急性の高い患者の受け皿を確保する使命があるのだ。「適切な病床管理をすることは、千船病院の経営を守り、ひいては約900名の職員、患者さん、地域医療を守ることにもつながるので……責任重大です」
病床管理は効率よく病床を埋めていくゲームのテトリスのようなものと思われるかもしれない。しかし、それも違う。患者の疾患、重症度、年齢、認知機能、日常生活動作の指標であるADL、治療内容などを鑑みて、その状態に適したベッドを確保する。患者の担当診療科のベッドに空きがないときには、他の診療科と交渉して受け入れてもらうこともある。西川は「どこも“うちの病棟は忙しいから”と受け入れ拒否されてもおかしくない状況なんです」という。
そこで彼女が力を入れてきたのが病床の「見える化」である。
入退院や手術予定の患者数、看護師数など病床に関する情報を会議で共有。ホワイトボードや電子カルテでも看護師や医師が確認できるようにした。「院内全体の状況が客観的に見えると“他の科も大変なんだ”と、受け入れに動いてくれることがあるのです」
また、長期入院患者のリストを公開し、退院までのゴールを現場に意識してもらうことにした。「患者さんの課題を把握した綿密なケアを、医療スタッフが一丸となって実現してくれています。その結果、早期に退院してもらえ、急性期医療を必要とする新たな患者さんを受け入れることができるという、良い循環が生まれています」
千船病院の病床管理は、西川1人に任されている。西川にその苦労を尋ねるたびに、現場の皆さんが“神”なんですよ、と周囲への感謝を口にする。この人柄こそが、千船病院のベッドを円滑にコントロールできている鍵なのかもしれない。
取材・文 今中有紀 写真 奥田真也