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千船病院広報誌 虹くじら 千船病院広報誌 虹くじら

もっとも嬉しいのは、お産の時の感想や感謝を伝える手紙 をもらったとき

2024.08.07 ちぶね〜ぜ 麻酔科 角千里医長

千船病院、麻酔科医長の角千里が、無痛分娩に関わるようになったのは、前任地の関西医科大学附属病院だった。「病院の方針で無痛分娩をやるようになりました。そうしたら、あっ、これ面白いって思ったんです」

無痛分娩では主に「硬膜外鎮痛法」が採用されている。硬膜外腔という背中の脊せき髄ずいに近い場所に局所麻酔を打つ。麻酔の効果は下半身のみ、妊婦の意識ははっきりしている状態である。

「一般的には陣痛が来ると、子宮口が開き始めます。4、5センチ開くとお母さんの痛みが激しくなります」最終的には子宮が10センチほど開き、そこから赤ちゃんが出てくる。子宮の収縮、出口付近が引き延ばされる刺激が、脊髄を伝って痛みと感じる。そこで硬膜外鎮痛のカテーテルを入れて、経路を麻痺させる。

「難しいのは人によって痛みの強さも麻酔の効き具合も違うこと。麻酔の量が少ないと痛みがとれません、逆に効き過ぎると陣痛が来ているという感覚もなくなってしまう。そうすると(赤ちゃんを押し出す)力がはいらなくなってしまうんです」

身体を動かしたときに管が抜ける、あるいは麻酔薬が誤って血管に入ってしまうことがある。血管に入った場合は、全身に麻酔が回り、最悪、母親の死に至る。

「無痛分娩を希望されるお母さんには、まず『無痛分娩外来』で、麻酔を使う利点、リスクを説明します。その上で不安に思っているのかを伺います。例えば、歯医者の局所麻酔で動悸が激しくなって気が遠くなった、麻酔のアレルギーがあるんじゃないかと怖がる方もいらっしゃいます。麻酔の仕組みを説明してアレルギーではないと理解してもらう。ゆっくり、そしてしっかりお話することを心がけています」

手術室で働く麻酔科医は、覚醒している患者と顔を合わせて話をする機会が少ない。一方、無痛分娩は違う。外来での相談から出産まで付き合いが続く。「最初は、足繁く患者さんのところに行くと、邪魔じゃないかな、って心配でした。きちんと話すことで不安が解消されることが分かってから、距離感がつかめるようになりました」

 角がもっとも嬉しいのは、退院後にお産の時の感想や感謝を伝える手紙をもらったときだ。「やる気の源になります。全部、めっちゃ大事にとっています」そう言ってにっこりと笑った。

取材・文 編集部  写真  奥田真也

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