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腎臓移植という人生を変える選択肢を地域の人々に。

2024.12.23 ちぶね〜ぜ 副院長・泌尿器科主任部長  樋口 喜英

 腎臓が悪くなったら、人工透析治療(以下、透析)。そんなイメージはないだろうか。しかし、そんな〝常識〟を変えようと奮闘している医師がいる。千船病院の泌尿器科主任部長であり、腎センターを率いる樋口喜英だ。「透析とは腎臓の代わりに老廃物を取り除く代替療法で、腎臓の機能の一部しかまかなえません。そのため、合併症や生存率の低下のリスクは免れず、透析のみならず食事や運動などの厳しい制限も一生続きます。女性は出産が難しくなったり、小児であれば成長に支障をきたしたり、とその後の人生に大きく関わるのです」

 だからこそ樋口は、腎臓移植が可能な患者にはその選択肢を提示する。腎臓移植は安定すれば腎臓の機能がほぼ正常に回復する。そのため健康リスクは低下し、制限の少ない社会生活も望める。樋口には、腎臓移植の可能性を文字通り〝目の当たり〟にした経験がある。医学生時代に見た患者の変化だ。

「二十代の女性の腎臓移植手術に立ち会ったときのことです。移植後、血液が巡った腎臓は目を奪われるほど血色良く艶やかに変化し、数分で尿が作り出されたのです。衝撃を受け、感動しました。退院後は健やかな新しい日常が訪れ、しばらくすると浅黒かった肌が健康な色に変わったそうです」

 このときの光景が忘れられず泌尿器科医となり、大学病院では腹腔鏡手術、小児泌尿器手術で経験を積みかさねる傍ら、移植認定医となった。2014年、千船病院へ来てみると、腎臓移植という選択肢が身近にあることすら知らない患者が多かった。

「日本では臓器移植のドナーが少なく腎臓移植も一般的ではないため、医師であっても移植の経験や知識がある人は少ない。当然、患者さんにも移植の選択肢が提示されないことが多いのです」

 2016年、千船病院で一例目の「生体腎移植」が行われた。生体腎移植とは、患者の親族の腎臓を使用する手術である。そして2017 年、腎臓移植に精通した専属看護師や内科医などの仲間とともに「腎センター」を設立した。「腎臓を悪くした患者さんに対して地域の病院だからこそ、診察から手術、アフターフォローまで切れ目のないケアを提供できます。移植実施の有無にかかわらず、その患者さんにとって本当に適した治療を、地域に根ざして行いたいのです」

 そのためにはチームが必要であると樋口は強調する。「まず患者さんに必要なものは何か?という視点で意見を交わせる看護師がいて、( 静脈を動脈に縫い合わせて繋ぎ、動脈血を直接静脈に流す) シャント血管の治療を共に行う臨床工学技士がいて、透析治療をしっかりとできる場所だから腎臓移植の話ができるのです」

取材・文 今中有紀  写真  奥田真也

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