褒め上手の筋トレ理学療法士は、千船病院の「ローランド」
「毎日お昼休みの20分間と帰宅後に、腕立て伏せと腹筋を各100回しています」
千船病院にて、患者の医学的リハビリテーションを担当する理学療法士(PT)の椎葉勇生は、患者からも「ええ体やね」と言われるほど鍛え上げた肉体の持ち主だ。椎葉のストイックさは、仕事でも同様だ。千船病院を運営する社会医療法人愛仁会に就職したのも「研修が充実していて、勉強し続けられると思ったから」と明かす。愛仁会の中で、尼崎だいもつ病院、そして千船病院とキャリアを積んできたのも、異なる“病期”の患者を担当し知見を深めたかったから。回復期の患者が多い前職と急性期の患者が主の千船病院では、理学療法の計画も実施も、患者への接し方も異なることが多い。「千船病院では怪我や病気をしたばかりの急性期の患者さんを担当しています。ドクターからも“治すのはリハビリ科”と言われるほど、急性期の理学療法は重要です」
現在、椎葉はリハビリテーション科で脳卒中チームのリーダーを務めている。前職で脳卒中の患者を多く担当した経歴に加えて、個人的にも脳卒中関連の勉強会で学び続けてきたことから指名された。「特に脳卒中の場合、どのような理学療法を実施するかによって患者さんのその後の身体能力、さらには人生まで変わってくるとも言えるので、やりがいと責任を感じます」
椎葉が患者に対して心がけているのは、肯定感を高める声かけをすること。そこで自身が筋トレで肯定感を高めてきた経験が活きる。理学療法は身体機能が低下している部分の回復に着目されることが多いが、椎葉はひと味違う。各患者のできることを探して「○○ができる人」として接する。そうすることによって、声かけも変わってくる。「頑張っているから、こんなことができるようになっていますよ!」
椎葉のひと言は、できないことばかりに意識がいきがちな患者に対し、改善への気づきを与え、辛い理学療法へのやる気をも芽生えさせる。信頼関係が生まれると、理学療法も継続してもらいやすい。褒め上手だからと「( 有名ホストの) ローランドさんみたい」と言われることも。「先生やから信じられるわ、と言って頑張ってくれた患者さんが、日常生活に戻れるようになったときに“先生で良かった、ありがとう”と言われると幸せです。何度聞いても本当にうれしい言葉ですね」
取材・文 今中有紀 写真 奥田真也